飛行船、飽和

 

食わず嫌いしていた作家の本を読んで、案の定の気に食わなさと、思った以上に心打たれる文体に心が鎮まる。

鎮まるとは、ある意味、心躍ることでもある。

心が静まっているとき、私の頭は船と星のことでいっぱいになる。

いつか巨大な飛行船に乗って、知らない星に行く妄想が、いつも脳内を支配する。

それは希死念慮の強い人間たちのための救助船で、嫌なことがひとつもない星に連れて行ってくれる。

この妄想が始まったのは、あるカルト宗教の集団自殺に関するネット記事を読んだことがきっかけだ。

その記事はあまりにもセンセーショナルで残酷で悲しい事実が述べられているけど、私の中で何かひとつの答えが出たような、生き延びていく術が与えられたような、そんな記事だった。もちろん私は自殺なんてしないし、きっと誰よりも長生きすると思う。悲しいことに身体が強いから。

けど、生きていることにこんなに冷徹な視線を投げられる人間に、今まで現実に出会ったことがない。

こういうことはあまり言ってはいけないのだと知ってからは、目の輝きを捏造した。

 

 

 

好きな人やものを増やしていくことが生きていく術なんだろうか

 

使い捨ての愛、プラスチックみたいに海面に浮遊する愛、いつか誰かが網で掬い上げてくれるだろうか

私のあのときの愛は、今どこの海を漂っているだろうか

何もかもなかったことにしたとしても、「あった」ということは、揺るぎない事実だから

巨大な飛行船が迎えに来るまで、私は寿命をまっとうする